2007/09/30(Sun) 23:50

一冊の本

カロリーがどうとか、肝臓がどうとか、
けっこう、人並み以上に気にしながら、
それでも今夜も、酒を飲みつつ録りためたテレビをみて、
夜が更けるのを待っている。
夜が更けないと、だめなんだ。
浅い夜の僕は、あたりまえのことに取り囲まれて、
そう、
あたりまえのことに取り囲まれて、
あたりまえのことばかり、繰り返し考えてしまう。
それが辛くて、
とてもとても辛くて、
僕は安い酒を繰り返しグラスに注いで、
ぼんやりとテレビを眺めながら、
夜が更けるのを待っている。
夜が深まると、
僕はだんだんと、
あり得ないことを想いはじめる。
それは、
あり得ない世界のあり得ない物語であったり、
ちょっとだけ隣の世界の、やっぱりあり得ない物語であったり、
それから、
僕の明日の、けれどあり得ない物語であったり。
それが、希望に繋がることを願いながら、
酒を口にして、
物語の続きを探してゆく。
酔った頭を冷ますのが惜しくて、
最後の一杯を飲み干したら、
僕はすぐに横になる。
眠気を誘う頭痛薬を飲んで、
とてもずるい方法で眠りにつく。
明日の朝、僕が、
例えば一冊の本になって布団の上に横たわっていたら、
それを読んだ誰かが、
きっと辛い気持ちになるような、
僕はきっと、
そんな物語を紡いでいる。
category 3.詩

2007/11/30(Fri) 02:27

3万日

仕事がポカっと空いたので、
忙しくて取れなかった夏休みを消化することにした。
博物館に行ったり、
新しい目覚まし時計を買いに行ったり、
それなりに充実した1日。
でも、
そう、明日も夏休み。
テレビでは、1500年も昔の継体天皇の話をしている。
継体天皇の時代から、1500年。
継体天皇の時代から、55万日。
けれど、僕は、
55万日の歴史を薄っぺらい画面で眺めながら、
明日の1日を、
どう過ごそうか迷っている。
たぶん僕は、
僕に与えられた3万日を、
こうして、
無駄に過ごそうとしている。
ああ、そうじゃない。
僕は、
無駄な1日を、どれだけ有意義に過ごすか、
ああ、そうじゃない。
僕は、
無駄な3万日を、どれだけ有意義に過ごすか、
それだけを考えて生きている。
それが、
無駄な事だと知ってはいるけれど、
それでも僕は、
僕に与えられた3万日を、
1つづつ、
1つづつ、
1つづつ、
消化している。
category 3.詩

2008/03/23(Sun) 01:08

砂つぶ

がれきの中に身をうずめて
僕はそこいらの石ころのようになって
ただじっと
誰もが僕に気づかずに立ち去るように願い
踏みつけられ
ひっくり返され
蹴飛ばされ
遠くへ放られ
甘い水でごまかし
僕の身がふたつに割れるのを感じながら
いっそ粉々になることを望み
どろの中に沈み
溶けて姿を失い
日が射して乾くのと同時に
温かい風が吹いて僕を運び
そのままちりぢりになって
やっと僕は
砂つぶとしてそこに眠る
category 3.詩

2008/04/04(Fri) 21:36

さくら

さくら咲き
空になり
春さめに
花潤み
舞う風に
枝ゆらし
また日射し
透き通り
さくら散り
海になり
さくら散り
また
あおく葉を茂らせ
category 3.詩

2008/06/05(Thu) 19:55

夜明け前

誰もがそれぞれ違った形の
目や鼻や口や
そういったものを
顔の上に整然と並べ
ときどき奇妙にゆがめながら
僕に向かって歩いてくる
すれ違いざま
彼らはちらりと僕を見て
まるでなにも見なかったように
そのまま歩いてゆく
いつだったか
僕は下を向いていたら
目と鼻と口を
いっぺんに落っことしてしまい
最初のうちは
何も見えなくて困ったけれど
そのうち慣れてしまった
それから僕は
どこかで見たくないものを見て
まぶたを閉じられず
それから僕は
切ない匂いを嗅いで思い出し
けれど涙は遠くで流れ
それから僕は
助けを求めて叫び
声は僕にも聞こえないところで響き
僕はいつもの場所にうずくまって
ただ朝日が肌を撫で
夜明けを知らせてくれるのを待っている
category 3.詩

2008/06/26(Thu) 12:42

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掘っても掘っても何も出ず
たまに見つかるきれいな石はポケットにしまったままで
いつまでも
掘って 掘って 掘って 掘って
category 3.詩

2008/08/25(Mon) 08:37

パン

僕の皿の上にはパンがひとつ
ふっくらと つやつやと
きのうの晩からそこにある

こじんしゅぎ
とかいうわがままで
僕は誰にもそのパンを食べさせないでいる


目の前に横たわり
じっとこちらを見る人にも
香りすら分け与えずに

僕は
僕の腹が鳴るのをじっと待っている

category 3.詩

2008/09/29(Mon) 18:17

とりとめのない日記

お気に入りの靴は
いつのまにか脱げてしまえばいいと
ひもを解いて歩いている

お気に入りの本は
居場所を見失ってしまえばいいと
しおりを挟まず読んでいる

お気に入りの鞄は
荷をばらまいてしまえばいいと
口を開けたまま手に提げている

それなのに僕は

いつでも足下を気にして
閉じるのが怖くて本を読み続け
なんども振り返り

望むものは突然の雨
望むものは明日の青空
望まないものはいつでも手の中にあり

背中から吹く風を
どうしようもなくただ受け流して
その先に舞う砂塵から目をそらし

それなのに僕は
とりとめのない明日の日記を
今日も
今日も
今日も

category 3.詩

2008/10/20(Mon) 01:17

しっぽ

後ろから指さされて
聞こえるように陰口を叩かれて
笑い声に怯えて

だから僕は

だから僕は
僕のしっぽを取り外して

見えないように押し入れの奥に隠して


まるで
そんなものは最初からなかったよと
涼しい顔をしてドアを開ける

ああ
取り外しのできるしっぽで本当によかったと
晴れやかな顔をしてドアを開ける


僕は
後ろから指さされることもなくなり
陰口を叩かれることもなくなり
笑い声に怯えることもなくなり

そして僕は

しっぽを失った

category 3.詩

2008/11/05(Wed) 18:14

まくら

まくらを抱えて今日もさまよう
寝処を探して夜遅くまで
少し窪んだ草むらの中に
湿った土で背中を汚し
右を向いても左を向いても
まくらは少しも頭に馴染まず
思い切りよく取り払えば
居場所をなくしてなかなか眠れず
あした目覚めるという奇跡を
まくらの下にそっと敷き
何千回と繰り返されて
当然のように奇跡は叶い
夜露を吸ってずしりと重く
若い草葉の香りは甘く
昨日より少し歩幅を広げ
まくらを抱えて今日もさまよう
category 3.詩